概要

統一特許裁判所(UPC)のパリ地方部は2026年10月6日、EP 2 949 070に基づくKeeeXの侵害訴訟について本案の口頭審理を行った。被告は、Adobe、OpenAI、Truepic、およびコンテンツ来歴標準C2PAを支える団体である。侵害の成否と有効性は、現在、主として1つのクレーム用語の解釈にかかっている。これまでの手続上の判断により、事件の範囲はすでに絞り込まれている。具体的には、本特許の6か国分の国内部分が審理対象から外れ、遅れて提出された補正と新たな被疑製品の追加は認められず、損害賠償請求額は数十億ユーロ規模から9桁規模の暫定請求にまで縮小した。特許権者にとって本件は主張書面の作り方に関する教訓であり、業界標準を実施する企業にとっては現在進行形のFTO上の問題である。

事案

JUVE Patentによれば、KeeeXは2025年6月17日に訴えを提起した。被告はAdobeおよびOpenAIのグループ会社、Truepic、Joint Development Foundation、そしてCoalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA)である。各被告はいずれも取消反訴を提起している。本特許は、デジタルデータブロックの完全性と真正性を検証する方法に関するものである。KeeeXは、被告らがコンテンツの検証または処理を行うツールにおいて本特許の特徴を使用していると主張している。裁判長と報告裁判官を兼ねるのはCamille Lignièresであり、法律系裁判官のCarine GilletおよびPeter Tochtermann、技術系裁判官のAlessandro Sanchiniとともに合議体を構成する。

中心的な争点は、クレーム1の「digital identification fingerprint」(デジタル識別フィンガープリント)の意味である。JUVEの報道によれば、KeeeXはこの用語をデジタル署名とは区別しているのに対し、被告らはより広い解釈を主張している。Dhenne Avocatsは、報告裁判官がRule 105.5 RoPに基づき2026年9月22日に発した命令を要約している。同命令は、争点を、フィンガープリントがハッシュ型のものに限られるのか、デジタル署名も含むのか、という問いとして整理した。当事者間では、「デジタルデータブロック」が何を指すか、フィンガープリントがどのように算出されるか、連結されたブロックがどのように検証されるかについても争いがある。被告らは、KANAI、OpenPGP、PDF規格などを先行技術として挙げている。

同命令は中間手続を終結させ、クレーム解釈、有効性、侵害、救済をカバーする1日間の口頭審理の議題を定めた。また、11件の補助請求を受理した。口頭審理はフランス語で行われ、英語への同時通訳が被告らの費用負担で提供される。

JUVEは、これまでの手続の経過も追っている。

背景

Bech-BruunとLavoixは、管轄に関する判断を報じている。パリ地方部は2025年11月27日、本特許のスイス、スペイン、英国、アイルランド、ノルウェー、ポーランドの各国内部分について管轄を認めた。その根拠は、欧州連合司法裁判所のBSH v Electrolux判決であった。しかし控訴裁判所は2026年3月13日、この判断を覆した。

控訴裁判所は、ブリュッセルIa規則(Brussels Ia Regulation)Article 7(2)(損害発生地)に基づく管轄は、UPC領域内で生じた損害に限られると判示した。KeeeXの訴状は、侵害が「特にフランスにおいて」生じ、損害は「全世界に及ぶ」と述べたうえで、指定国を列挙するにとどまり、それ以上の説明をしていなかった。控訴裁判所は、これはRule 13(1)(i) RoPの要件を満たさず、後から提出された証拠によってこの欠陥を補うことはできないと判示した。他方、EU域外に住所を有する被告に適用されるArticle 71b(3)によって、UPC非加盟国の国内特許についての管轄を基礎づけられるかどうかについては判断を留保した。

論評者のFlorian Mueller(ai fray)は、本件をOpenAIに対して提起された初の本格的な特許訴訟と位置づけている。同氏は、紛争の核心にあるトレードオフを指摘する。「フィンガープリント」を広く解釈すれば、C2PAの暗号学的ハッシュを侵害として捉えやすくなる。しかし同時に、先行技術もクレームの範囲に入りやすくなる。Source 7の報道によれば、KeeeXは、SATT Sud-Estを通じてCNRSおよびAix-Marseille Universityの特許ファミリーについてサブライセンスを受けている。

実務への示唆

特許権者にとって、管轄に関する判断は実効性を伴う主張書面のルールである。UPCの前倒し型の手続により、KeeeXは3つの面で不利益を受けた。UPC非加盟国への射程を失い、被疑製品を追加できず、遅れた補正も認められなかった。複数国にまたがるUPC訴訟を計画する原告は、管轄の事実上の根拠を訴状において国ごとに示すべきである。具体的には、UPC領域内での侵害行為を特定し、Article 71b(3)に依拠する場合には、その連結点となる事実を示す必要がある。また、追及する予定の被疑製品をすべて特定し、補助請求も当初から一式提出しておくべきである。

明細書作成者にとって、本件は中核的な用語を定義しないことの代償を示している。「フィンガープリント」に署名が含まれるかどうかが、侵害と新規性の双方を左右する。EP出願向けにセキュリティや認証関連のクレームを作成する際には、鍵となる機能的用語を明細書中で定義し、署名、ハッシュ、MACといった近接技術を含むのか除外するのかを明示しておくべきである。そのうえで、各バリエーションを個別に記載した従属クレームを設けておけば、登録時の文言の中にあらかじめ後退位置を確保できる。

標準規格の実施者にとって、リスクは個別製品ではなく規格そのものにある。Muellerは、Samsung、Sony、Google、MicrosoftなどをC2PAの支持企業であり将来の被告候補として挙げている。また、C2PA自体に対する差止めはその会員企業を拘束しないとも指摘している。ただし、この企業リストは同氏の推測であり、訴訟上の主張ではない。C2PAのコンテンツクレデンシャルを搭載した製品を出荷する韓国メーカーは、実施者の側に立つことになる。こうした企業にとって、控訴裁判所が示した管轄の限界とUPCの厳格な遅延提出ルールは有利に働く。実務上の対応としては、自社のC2PA実装について、ハッシュのみとする解釈とハッシュおよび署名を含む解釈という2つの候補となる解釈の双方の下で、クレーム1との関係でFTO分析を行うことが考えられる。あわせて、各製品がどの技術を用いているかを文書化しておくべきである。

同じ韓国企業グループは、欧州で特許権を行使する立場にもある。原告となる場合、3月13日の判断はKeeeXに対してと同様に自社を制約する。各社の訴訟チームは、この判断を防御のための材料としてだけでなく、主張書面のチェックリストとしても扱うべきである。

今後の見通し

ai frayによれば、UPCの判決は通常、口頭審理の数か月後に言い渡される。注目すべき点は次の3つである。

Article 71b(3)の問題は、控訴審レベルで未解決のままである。

判決が出るまでの間、実施者は現時点でのC2PA実装の詳細を記録として固定しておくべきである。その記録は、非侵害の主張を支えるとともに、広い解釈が採用された場合の設計変更にも役立つ。EU域外の被告に対するUPCでの権利行使を検討する特許権者は、UPCを通じて英国、スペイン、スイス、ポーランドにまで射程を及ぼせると期待すべきではなく、これらの国での国内訴訟を並行ルートとして確保しておくべきである。予算策定にあたっては、通訳費用と訴訟費用の担保も見込んでおく必要がある。本件では、そのいずれも手続の途中で変動している。

出典