
AIハルシネーションを防ぐ「クレーム逆方向」作成術
AIで明細書を作成する際、詳細な説明から書き始めると、クレームにない構成が追加される「ハルシネーション」や、特許法第36条(サポート要件)違反のリスクが高まります。本記事では、確定したクレームを起点に明細書を逆生成する「クレーム中心プロセス」を解説。システム、方法、機能的クレームなど、5つの類型別プロンプト事例を通じて、論理的矛盾のない高品質な明細書を作成するノウハウを公開します。

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明細書の作成以上に、神経をすり減らすのが**先行技術調査(Prior Art Search)**ではないでしょうか。
特に、異業種融合技術や、自分が得意とする技術分野以外の案件が来たとき、点滅するカーソルを見つめながら途方に暮れた経験は誰にでもあるはずです。私たちが恐れているのは「検索」そのものではありません。**「自分が思いつかなかった『同義語』のせいで、致命的な先行文献を取りこぼすこと(Y文献の見落とし)」**への不安です。
「締結部材」で検索したのに、引用文献には「結合手段」と書かれていて見つけられなかった悪夢。今日は、この厄介な同義語のブレインストーミングを生成AI(ChatGPT, Claude等)を活用して劇的に短縮する方法を共有します。
単に「AIに聞いてみる」のではありません。ノイズを減らし、実務で即戦力となるキーワードだけを抽出するプロンプト戦略です。
ただ漫然と「バッテリー冷却に関連する言葉を教えて」と入力しても、AIは素人レベルの単語(例:涼しくする、扇風機など)しか返してくれません。これらは特許データベース(J-PlatPatやWIPS等)においてはノイズでしかしありません。
必ず、専門用語や特許独特の言い回しを提案するように制御する必要があります。
【悪い質問例】
電気自動車のバッテリー冷却に似た言葉を全部探して。
【良い質問例(プロンプト)】
「あなたは、特許庁の審査官対応を行うベテラン弁理士です。
今から**『電気自動車用バッテリーパックの液浸冷却(Immersion Cooling)』技術に関する先行技術調査のための検索式を作成しようとしています。
この技術分野(IPC H01M等)で通用する専門用語、同義語、下位概念、そして略語を日本語と英語**でそれぞれ10個ずつ列挙してください。
特に、特許明細書で頻繁に使われる表現(例:『冷却流体』、『熱交換手段』など)を含めてください。」
検索漏れを防ぐ鍵は、キーワードの階層(Hierarchy)を意識することです。AIには結果をただ羅列させず、構造化して出力させましょう。
実際に上記のプロンプトを入力すると、以下のような構造化された回答が得られます。
1. コアキーワード (Core)
液浸冷却 (Immersion Cooling)
直接冷却 (Direct Cooling)
誘電性流体 (Dielectric Fluid)
2. 機能的表現 (Functional Generalization) - ※ここが一番の見落としポイント
熱管理システム (Thermal Management System, TMS)
熱放散手段 (Heat Dissipation Means)
非導電性冷媒 (Non-conductive coolant)
3. 構成要素の変形 (Component Variants)
冷却流路 (Cooling Channel) → 流路 (Flow path), ジャケット (Jacket)
バッテリーモジュール (Battery Module) → セルスタック (Cell Stack), 蓄電装置 (ESS)
こうして分類されたキーワードさえ手に入れば、あとは論理和(OR演算)で組み合わせるだけです。
外国出願(Outgoing)や米国特許調査において、和英辞典や直訳では出てこない**「業界特有のジャーゴン(Jargon)」**にはいつも悩まされます。
そんな時は、このようなプロンプトが有効です。
「この技術分野の米国特許(USPTO)明細書において、『バッテリーケース』を指す際に最も頻繁に使用される代替用語を5つ、使用頻度順に教えてください。」
するとAIは、単なる 'Case' だけでなく、文脈に即した 'Housing', 'Enclosure', 'Casing', 'Encapsulation' などを提示してくれます。これらを検索式で (Case OR Housing OR Enclosure) と束ねてしまえば良いのです。
AIは優秀な「パラリーガル(補助者)」ですが、責任者ではありません。
ハルシネーション(幻覚)のチェック: 稀に、存在しないもっともらしい略語を創作することがあります。
ノイズのフィルタリング: あまりに広範な単語(例:単なる「車両」など)は、検索結果が数万件を超えてしまうため、弁理士の直感で思い切って削除します。
IPC/FI/CPCの確認: キーワードだけでは不安な場合、「この技術が属する可能性が最も高いCPCサブグループを3つ推奨して」と聞いてみてください。分類検索の当たりをつけるのに役立ちます。
私たちがAIを使う理由は、調査を「手抜き」するためではありません。人間の脳の連想能力の限界を補完し、たった一つの先行文献も見逃さないためです。
次の先行技術調査案件が来たら、使い慣れたキーワードを入力してエンターキーを押す前に、AIに30秒だけ投資して聞いてみてください。
「私が思いついていない同義語は、他にないか?」
その質問一つが、将来受け取る拒絶理由通知の衝撃からあなたを救ってくれるかもしれません。
[ ] AIに「特許の専門家」という役割を与えましたか?
[ ] 単なる単語の羅列ではなく、上位概念・機能的表現への分類を要求しましたか?
[ ] 日本語だけでなく、英語(USPTO基準)の専門用語もリクエストしましたか?
[ ] 推奨されたキーワードからノイズを除去し、検索式(OR演算)に組み込みましたか?

AIで明細書を作成する際、詳細な説明から書き始めると、クレームにない構成が追加される「ハルシネーション」や、特許法第36条(サポート要件)違反のリスクが高まります。本記事では、確定したクレームを起点に明細書を逆生成する「クレーム中心プロセス」を解説。システム、方法、機能的クレームなど、5つの類型別プロンプト事例を通じて、論理的矛盾のない高品質な明細書を作成するノウハウを公開します。

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