AI特許明細書作成: ハルシネーション防止と技術的正確性を保証するためのプロンプト戦略

AIを活用した特許明細書作成のための具体的なプロンプト例(特許専門家向けに最適化)
明細書のセクション別に、AIによる不正確な情報生成(ハルシネーション)を体系的に防ぐための5つの具体的なプロンプト例を紹介します。このアプローチは、AIを活用したドラフト作成において、法的な要件と技術的整合性を維持したい弁理士(日本、米国、欧州、中国の特許弁護士/弁理士)向けに最適化されています。-----Case 1. 【先行技術の記述】: 課題の一般論化・過剰な拡大を防止
先行技術の記述を作成する際、AI(LLM)は既知の課題を過度に誇張する傾向があります。この過剰な記述は、結果として本願発明の進歩性(Inventive Step)を不当に低めてしまうリスクがあります。
[プロンプト例 1] 「以下は発明者が提供した『先行技術の課題』に関するメモである。[入力テキスト]: 従来のA方式は、高湿度の環境下でセンサーの腐食が発生するという課題がある。
[指示事項]: 上記の入力テキストのみに基づいて、先行技術の記述セクションを作成せよ。
「全ての従来技術が失敗している」といった表現で一般化を絶対に行わないこと。
入力された「センサーの腐食」という課題以外に、電源(バッテリー)の問題や通信の問題など、原文にない欠点を追加して記述しないこと。
先行技術の限界は、**『耐湿性』**の観点に厳密に限定して記述せよ。」
-----Case 2. 【発明の詳細な説明】: 用語の定義と使用の標準化
発明者が「コントローラー」と「制御ユニット」のように用語を一貫性なく使用すると、AIが混乱し、請求の範囲や詳細な説明に曖昧さが生じます。記述の冒頭で用語を確定させることが極めて重要です。
[プロンプト例 2] 「本明細書を作成する際、以下の**[用語集/用語辞書]**を絶対的な基準として扱え。
発明届出書(IDF)における「頭脳」 → 明細書では**「制御モジュール(100)」**に統一。
発明届出書(IDF)における「接続線」 → 明細書では**「データバス(110)」**に統一。
[制約条件]: 上記の用語集で定義されていない新たな構成要素の名称を恣意的に生成しないこと。未定義の構成要素について説明が必要な場合は、「第1部材」「第2部材」のような一般的な名称を使用し、括弧内に**[要確認]**と明記せよ。」-----Case 3. 【発明の効果】: 因果関係の厳密な対応付け
構成Aが効果Bを生むという論理的関連性を維持しなければなりません。AIは、ある構成(例:構成A)の説明中に、別の構成(例:構成C)の効果を誤って結びつけることがあります。
[プロンプト例 3] 「以下の**[マッピングテーブル]**に従って、発明の効果(または『発明の概要』)を記述せよ。
構成: 二重チャンバー構造 $\to$ 効果: 熱効率が10%向上
構成: チタンコーティング $\to$ 効果: 耐摩耗性の向上
[注意]: チタンコーティングによって熱効率が向上すると記述しないこと。各構成とその効果の因果関係を混在させず、一対一で厳密にマッピングして記述せよ。」-----Case 4. 【数値限定】: 任意の最適範囲の生成を禁止
AIは「好ましくは10~20度である」といった裏付けのない「最良の形態」や「好ましい範囲」を慣習的に生成する傾向があります。これは、その範囲が発明でサポート되지 않을 경우、深刻な法的な問題につながる可能性があります。
[プロンプト例 4] 「発明の詳細な説明において、数値(パラメーター)を記載する際の原則である。
発明届出書(IDF)に明記された特定の数値(例:50mm、100°)以外に、AIが推論によって**『好ましい範囲』や『最適範囲』を恣意的に生成しない**こと。
請求項のサポートのために数値範囲が必要と思われる場合は、実際の数値を記入せず**[発明者確認要]**と記載して出力せよ。」
-----Case 5. 【図面の簡単な説明】: 存在しない図面番号の言及を防止
提出文書に図面が3枚しかないにもかかわらず、AIが「図4は変形例である」と記述するなど、元々存在しない図面を誤って説明するのを防ぎます。
[プロンプト例 5] 「添付図面は合計3枚(図1、図2、図3)である。[指示事項]: 『図面の簡単な説明』セクションを作成する際、図1から図3のみを説明せよ。図4や図5のような存在しない図面番号を絶対に生成しないこと。もし説明すべき内容が残っている場合は、図3の詳細な説明に含めて記述せよ。」